HYPOTHESIS
-デジタルアートの可能性の模索-
作品の多角的な挑戦が未開の表現を生み出す。
今年5月、この仮説に基づき個展『HYPOTHESIS』を開催した。
活動開始から主にデジタル作画ツールを使ってきたが、
個展ではCGやAI、印刷などの技術を用いて作品制作に取り組んだ。
SNSの急速な普及により、日々増していく情報や技術の数々。
我々クリエイターはこの波に飲まれることなく
新たな表現を模索し続ける必要がある。
これは私に与えられたメディアへの挑戦である。
<3DCGを用いた作品制作>

冷血

溶化

常熱
作品名:溶化 / 常熱 / 冷血
個展『HYPOTHESIS』にて、全3種類の作品を展示。
400×400(mm)・UV印刷を使用し、特に「溶化」には金箔を施している。Photoshop,Blenderを使用。
これらの作品はそれぞれ、人が冷たい、熱い、心地よいと感じる温度を視覚的に表現した作品で、Blenderという3dモデリングソフトを使用して制作している。
自作の3dモデルに自然光や照明光を当て、それぞれの温度感を肌にレンダリングさせて温度を効果的に表現した。
鑑賞者に「温度」を感じ取ってもらうことをコンセプトとして、3d技術を応用した利点も残しつつ記憶に残るような作品に仕上げられたと思っている。
「冷血」はサーモグラフィーのような青と赤を用いて冷たさを表現し、「常熱」は彩度の高い赤を主に使い、情熱や想いを感じ取れるようにした。
特に「適している温度」という曖昧な定義については、「外界の温度に馴染んでいる」という解釈を取り、青緑からソフトな黄色へと変わるくすんだ空のグラデーションと、寝起きの暖かさや早朝の寒さを感じさせる朝日を、髪の毛の強烈なコントラストで表現した。
<生成AIを用いた作品制作>
作品名:chaos

加筆後

加筆前
hypothesisにて展示。全1種類。
420×297(mm)・uv印刷。Photoshop,Midjourneyを使用。
「AIが表現する混沌と、人の秩序の融合」をコンセプトにした作品である。
この作品は生成AIを用いて制作しており、「Chaos(混沌)」というプロンプトを与えて出力された生成物に私が手を加えて完成させた。
「Chaos」のプロンプトは、一般にはよくインパクト重視で正確性を無視した作品を生成する際によく使われるものであり、指の本数が異なるなど、常識から逸脱した生成物が出力されることが多い。
今回はあえてこのプロンプトを使用し、表現された「混沌」を人間の手で整え、より人間らしい感性を持ち合わせた迫力のある作品に仕上げてみた。
人間の業務や表現が人工知能に置き換わろうとしている現代において、AIが人間のミスを正すことがあるように、人間がAIのミスを正すことも必要ではないかと考えている。
<特殊印刷を用いた作品制作>
作品名:I NEED U
他にも個展では特殊印刷を用いた作品なども展示するなど、毛色の異なる作品制作に挑戦してきた。
hypothesisにて展示。全2種類。
420×297(mm)、シルクスクリーンとuv印刷。
「失う」というテーマをコンセプトにした作品である。
失恋し傷心している友人に協力を仰ぎ、やり場の無い失恋の感情を形にしてもらい、作品に仕上げた。
個展開催前は左下のバージョンのみであったが、失われた「これまで(塗り)重ねてきたもの」を象徴するために、塗りを加える前の線画段階のバージョンも追加し、シルクスクリーンを用いる形で昭和の漫画風のタッチで制作してみた。
「( I ) NEED U」という文字は、失恋時に彼女がよく聞いていた楽曲名である。
結果的に、個展ではこの二つの作品の色や塗りのコントラストが非常に目を惹くものに仕上げることができたと考えている。


↑カラーバリエーション

↑個展「HYPOTHESIS」パンフレット



個展当日の様子。
SNSの告知で100名以上の来場者が訪れ、普段の私の作品とは異なる表現を楽しめたと感想をいただくことができた。
今まで描いてきた作品含む全15の作品を展示し、二日間の開催期間中は私が常駐して来場者に作品に込めた真意やコンセプトを伝えた。
このことから私は個展の開催理由である「作品の多角的な挑戦が未開の表現を生み出す」という仮説が証明できたと考えている。